ラテンアメリカ文学研究者の旦敬介明治大教授は、本はゆっくり読むのがいいという。最近はそれを「スロー・リーディング」と名付け、広めているそうだ。エッセーに記していた
▼もともとは読むのが遅いことに負い目を感じていたらしい。世間では早く読めることに価値が置かれがち。ところが旦教授は翻訳を多く手掛けてきたため、日本語の文章まであれこれ惑いながら綿密に読む癖がついてしまったのだとか。結果どうなったかというと、「全体像や要点をとらえるのが苦手に」なったのである。そこで教授はこう考えた。小説に出てくる街や人を楽しむだけでも十分ではないか。「細部を味わいつくしていく」のも、本との付き合い方の一つだと気付いたわけだ
▼わが意を得たりと膝を打った遅読の人もいるのでないか。読み方は人それぞれ。どんな接し方をしようと他人にとやかく言われる筋合いはない。かしこまらず気軽に本を手にしたいものだ。読書週間(10月27日―11月9日)真っただ中である。読売新聞が週間に際して実施した調査では、「本を読むことは人生を豊かにしてくれる」と答えた人が88%に上ったという。ただ1カ月に1冊以上読む人は47%にとどまった。面白い本はいっぱいあるのにもったいない
▼当方は今、ことしの江戸川乱歩賞受賞作、伏尾美紀さんの『北緯43度のコールドケース』(講談社)を読んでいる。身近な札幌が舞台のため風景が目に浮かぶし、主人公も魅力的。先の展開が気になってページを繰る手が止まらない。スロー・リーディングは、また別の機会に。