■ 助けられていたのにそのときは分からず、後になって自分の状況が落ち着いてからやっと気付くことがある。児童文学作家新美南吉の「ごん狐」も、そんな運命のいたずらを描いた作品だった
▼母親を亡くした兵十を気の毒に感じた小ぎつねのごんが、栗やマツタケといった山の幸を毎日こっそり家に届けている。不思議に思った兵十が仲間に話すと、神様の仕業だという。明くる日、家に帰ると中に小ぎつねがいた。悪さをしに忍び込んだと思った兵十は鉄砲を取ってごんを撃つ。ふと見ると、ぐったりしたごんの横にたくさんの山の幸が置いてある。兵十はやっと理解した。「ごん、お前だったのか」。今回の衆院選の結果を見て、思い出した話である
▼〝新型コロナウイルス感染拡大防止に失敗〟と世論が集中砲火を浴びせ、退陣に追い込んだ菅政権が実は現在の収束状態をつくった立役者だった。「菅さん、あなただったのか」というわけである。日常を取り戻しつつある中で有権者は気付いたのでないか。ふたを開けてみれば自民、公明両党で293議席を確保。自公政権は信任された。自民党単独で絶対安定多数を獲得している。一方で共闘した立憲民主党と共産党は、それぞれ改選前より議席を減らした。戦術だけで勝てると過信した見込みの甘さが惨敗を招いたようだ
▼独自路線の日本維新の会は躍進し、国民民主党は善戦した。多様な選択肢がある日本の民主主義の健全さを示すものだろう。有権者はマスコミの扇動に踊らされなかった。「ごん」を撃ってしまった反省があったのかもしれぬ。