臨床心理学者の河合隼雄さんが対談で学校についてこんなことを語っていた。「高校生ならまだどうにか話になるでしょう。小学生はまだ先生の話を聞く。中学生はものすごくむずかしい。中学校を三年にしているのは、どうも日本人には合わないような気がしてるんですが」(『こどもはおもしろい』講談社)
▼当方も中学生の子どもを持つようになって初めて分かった。確かに中学生は「ものすごくむずかしい」。体の急激な変化に心が追い付いていないため、気分が高揚と落ち込みの間をジェットコースターのように上下する。自分を持て余して爆発することもしばしばだ。子どもと大人が一人の中で奇妙に同居しているのが中学生という年頃である。しかも個人差も大きい
▼そんな年代特有の事情が影響した悲劇だろう。愛知県の市立中でおととい、3年生の伊藤柚輝君が同じ学年の男子生徒に包丁で刺されて死亡した。二人の間に何かしらの事情はあったろうが、どこかでブレーキをかけられなかったか。事件が起きたのは午前8時頃、1時間目の授業前だったという。男子生徒が伊藤君を廊下に呼び出し、持っていた刃渡り約20cmの包丁で腹部を刺したそうだ。男子生徒は駆け付けた警察官に現行犯逮捕された
▼犯行は計画的で殺意も強く、罪は免れない。ただ二人とも今回の運命を決して望んでいなかったはず。河合先生のこの言葉が重く響く。中学生のころは「本人も本当は何がおこったかわからんような状態」。自分の間違いに気付くきっかけさえあれば、二人とも救われる道があったろうに。