うそをついてはいけない―。子どものころ、親や先生にそう教えられた人は多いのでないか。悪事や見え張りがばれるのを恐れ、思わず口から出てしまうのがうそである。誰しも覚えがあるだけに、笑い話になりやすいのだろう。「猫の災難」という落語もあった
▼熊さんの長屋に、友だちが一升瓶を抱えて遊びに来るのである。ところがつまみにしようと思っていたタイを隣の猫に食われてしまったと熊さんが言う。実は最初からタイなどない。それならと友人は買いに走ったが熊さんは飲むのを我慢できず、気付けば瓶は空。友人にはまた「隣の猫が瓶を倒してこぼれたんで吸った」とうそをつく。聞いた隣の奥さんが文句を言いに来て作り話がばれた
▼こちらもそんな落語のようだ。泉田裕彦衆院議員が先の衆院選前に、星野伊佐夫新潟県議から数千万円を要求されたと暴露した件である。星野県議は当初「全くない」「作り話」と否定していたが、録音データがあると知ると急に「全部思い出した」そうだ。泉田氏が3日公開した音声が生々しい。星野氏は2000万円、3000万円と具体的な数字を挙げ地元にばらまく裏金を要求。後から選挙の正式な必要経費だったと説明しているものの、隣の猫のせいにするのと同じくらい真実味がない。実際、泉田氏は〝実弾〟に使われると思ったようだ
▼衆院選で新潟5区は保守分裂選挙だった。泉田氏にとっては苦しい戦いだったはず。そこにつけ込まれたわけだ。滑稽としか言いようがないが笑えない。あえて題を付けるとすると「新潟県民の災難」か。