中国政府を批判して逮捕されたものの、命からがら逃げ出し今は亡命先のタイで暮らす顔伯鈞という人がいる。その一部始終を記した『「暗黒・中国」からの脱出』(2016年、文春新書)に現在の中国の本質に触れた部分があった
▼顔氏はこう指摘する。「中国共産党の独裁体制を支えるのはその資金力だ。彼らは資金の輸出や経済協力関係を通じて、他国の政府を買収してみずからの側に引き寄せ続けている」。安価な労働力を提供して世界の工場となり、大量生産した製品を輸出して外貨を稼ぐ。グローバル化に便乗した1978年以来の改革開放路線は大成功を収め、今やGDPは世界第2位である。ただし改革開放もしょせんは外向きのポーズ。膨大に蓄積された資金の陰で犠牲になっている人も大勢いる
▼残酷な状況が次々と明らかになる新疆ウイグル自治区での人権侵害、香港での民主化勢力弾圧、アフリカ諸国など発展途上国での経済支配―。傍若無人な振る舞いに多くの国が眉をひそめている。そんな中だから不思議はない。米国や英国、オーストラリアといった西側先進国から、来年2月の北京オリンピックに政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」の動きが出ているのだ
▼平和の祭典を政治問題化するなと中国は怒るが、開催国だからこそ襟を正せというのが国際社会の主張だろう。資金集めの道具ともなる北京オリンピックを手放しで認めるのは犠牲者を見殺しにするのと同じ。日本はまだ態度を決めかねている。まさか中国に引き寄せられている人物がいるわけではあるまい。