年末恒例のテレビ番組の一つに日本で一番面白い漫才師を決める『M―1グランプリ』(テレビ朝日)がある。毎年楽しみにしている人も多いに違いない。ことしも過日、第17回の放送があった
▼見事優勝したのは長谷川雅紀と渡辺隆のコンビ「錦鯉」。決まった瞬間、テレビの前で思わず涙した人も少なくないのでないか。長谷川さんは札幌市出身の50歳、渡辺さんは43歳。大会史上最年長のおじさん二人組である。M―1は結成15年以内の漫才師が日本一を目指す大会で、若手の登竜門とされてきた。そこに結成10年のおじさんたちが飛び込んだのだ。おととしまでは全くの無名。それでもこの歳まで夢を追い、挑戦し続けたというのだから涙腺も緩む。漫才も文句なく面白かった
▼今回も形はいつも通り。長谷川さんの大声「こ~んに~ちわ~!」で始まり、そのまま「バカ」が暴走。それを渡辺さんがいさめる。誰が見ても楽しい。今回の出場は6017組。頂点に立つのに年齢は関係ないことを証明した。錦鯉への大きなエールは日頃肩身の狭い思いをしている世のおじさんの心の叫びにも聞こえる。若い女性にはうざい臭いと嫌がられ、男性にも面従腹背であしらわれる。それならと張り切れば今度は暑苦しいと迷惑がられる始末。もうおじさんはどうしていいやら
▼長谷川さんは『くすぶり中年の逆襲』(新潮社)にこんな信条を記していた。「親と他人と過去の自分、この三者と自分を比較しない」。「比較三原則」というらしい。おじさんが今の時代でも輝くコツはそんなところにあるのかも。