災害そのものに加え、命を守る対策までもが被災者を苦しめる。時に起こる不幸な現実だろう。例えば東日本大震災後の福島県で大規模に実施された県外避難である
▼多くの住民が慣れ親しんだ人や土地から切り離され、不自由な暮らしを強いられた。孤立したまま病に倒れるお年寄りも少なくなかったと聞く。問題点が明らかになっても、被ばくへの過剰な恐怖にとらわれた政府や自治体は有効な手を打たなかった。発災直後の混乱期に出る対策が不十分なのは仕方がない。だからこそ最新の事実と状況の変化に合わせ、常に見直していく姿勢が必要なのである。新型コロナウイルス対策も構図は同じ。病から命を守るための外出や交流の抑制が経済や人間関係に深刻な影響をもたらしている
▼岸田首相は年頭の記者会見で新たな変異株「オミクロン株」に関し、感染者全員を入院させるこれまでの運用を見直す方針を明らかにした。同時に感染拡大時には行動制限強化も辞さないとの考えも併せて表明している。入院運用見直しはいいが、行動制限強化の表明については首相に何らの工夫も感じられない。オミクロン株は感染力は強いが重症化リスクは低いとされる。3回目はまだとはいえ多くの国民がワクチン2回接種を済ませ、飲み薬も承認された。首相はむしろ行動制限を簡単に強化しない方向への転換を打ち出すべきではなかったか
▼コロナへの恐怖で踏み出せずにいるのだろう。ただ、このままではコロナで苦しむより、仕事の場や学ぶ機会、温かな交流を奪われて倒れる人が増えるばかりである。