二人の男性が同時に一人の女性を愛してしまう、三角関係から生じる愛憎劇は物語の定番だろう。疑心暗鬼にかられ、一喜一憂し、残酷な結末を迎える。感情を揺さぶる要素が幾つも詰まっている
▼武者小路実篤は小説『友情』で、その男二人を厚い友情で結ばれた親友に設定した。人付き合いが悪く無愛想な自称脚本家の野島と、新進気鋭の人気作家大宮が活発で美しい杉子という女性に恋をしてしまったのである。最初に熱を上げたのは野島で大宮に助力を頼んでいた。大宮も杉子を憎からず思っていたが野島を気遣い一人パリへ去る。しかし杉子の好きだったのは大宮の方。野島から寄せられる好意は、むしろ迷惑と感じていたのである
▼連合を巡る最近の立憲民主党と自民党の恋のさや当てを見て、そんな武者小路文学の傑作を思い出した。連合がもともと付き合っていたのは立民の方。ところが立民は前回衆院選で連合の理念と合わない共産党と親交を結ぶ。連合の心が離れるのも当然の成り行きだった。この事態を見透かしたように登場したのが自民である。岸田首相が現職の首相としては9年ぶりに連合の新年交歓会に出席。さらに官邸で芳野友子会長と会談し、連合への期待を伝えたという。首相は常々労働者の賃上げにも言及しており、連合にとって魅力は十分だ
▼皆さんお察しの通り、先の『友情』で最後に杉子との愛を成就させたのは夢想家の野島でなく、友だち思いで気遣いもできる大宮だった。連合の動向は今夏の参院選に大きく影響する。さて、ハートを射止めるのは立民か自民か。