日本が超高齢社会に入った証拠だろう。いわゆる「老害」の言葉を耳にする機会がかなり増えた。店や役所で怒鳴り散らす、権威を手放そうとしない、独善的な考えを押しつける―。もちろん全員ではない。ほとんどの人はそうはなりたくないと思っていよう
▼哲学者の鷲田小彌太さんは『晩節を汚さない生き方』(PHP新書)で、本来は幸せなはずの健康と長寿が逆に晩節を汚す原因になっていると指摘していた。歳は取っても元気だから、「君らには任しておくことはできない。わたしがやる」、「このままでは死ねない。最期まで見届けたい」との気持ちが強くなるのだとか。勢い、上から目線で堂々とおかしなことを言うようになる
▼わが国の首相経験者の中にもその例に漏れない方々がいるようだ。原子力発電所を地球温暖化防止に有効な〝グリーン投資先〟として認定するEUの方針に、元首相5人がかみついたそうだ。先週、連名でこれを批判し、撤回を求める書簡を欧州委員長宛に送ったという。5人とは菅直人、小泉純一郎、鳩山由紀夫、村山富市、細川護熙各氏である。反原発の表明はさておき、その根拠に多くの子どもたちが福島原発由来の甲状腺がんで苦しんでいるとのデマを挙げている点は見過ごせない。国連など多くの科学機関が明確に否定している
▼戦争の火種になった過去からエネルギー問題には敏感な欧州に、元首相の権威をチラつかせて独善的な主張を押し付ける鈍感さにも驚く。顔ぶれを見ると今では首相時の評価が高くない方々ばかり。晩節はあまり汚さぬ方がいい。