世界の中で日本人くらい食材にこだわる人たちも、そういないのでないか。旬を気にし、産地を選ぶのはもちろん、常に一番おいしい食べ方を工夫している。各地で食材のブランド化も著しい。例えばマグロなら大間、小豆は十勝、桃だと福島といった具合
▼どれも大差はない、本当にそこまで微妙な味の違いが分かるのか―。そう言われてしまえばそれまでだが、有名な産地でがっかりさせられることは実際少ない。産地偽装がこれだけ世にはびこるのも、人々のそんなこだわりあってのことだろう。中国産が必ず粗悪なわけではないが、同じ食材で中国産と国産があれば多少高くとも国産を買いたくなるのが人情である。産地を偽りたいとの誘惑に勝てない人がいても不思議はない
▼それにしても今回発覚した偽装はひどすぎる。農林水産省が1日公表した「広域小売店におけるあさりの産地表示の実態」によると、原産地別販売割合が国内最多の〝熊本県産〟あさりの、実に99%が偽装だったというのである。2020年に〝熊本県産〟と銘打って販売されたあさりの数量と漁獲量を比較したところ、販売2485㌧に対し、漁獲21㌧だったそうだ。農水省はDNAも分析。「外国産が混入」と判定した
▼99%が偽物ということは本物を食べた人はほとんどいなかったのである。歌手のそっくりさんが本人と偽って全国で荒稼ぎしていたようなもの。漁協黙認で何十年も続いてきたとの報道もある。味の違いは別にして、信頼できる産地かどうかはよく分かった。こだわりのリストからは外させてもらおう。