賃上げ企業総合評価加点の疑問点 専門家2人に聞く

2022年02月07日 08時00分

建設業者に戸惑い

 北海道開発局など国の発注機関による、賃上げ企業に総合評価方式で加点措置をする工事、委託業務の各公告が既に始まっている。2021年12月27日の閣議を経て、急きょ開始したインセンティブ付与制度。ほとんどの建設業者がこれに戸惑っている状況だ。今回、代表的とされる疑問点を税理士・専門家に問い掛け、対応指針などをヒアリングした。

 今回用意した主な質問は、①役員報酬は賃上げ計算に含まれるか②各手当のうち賃上げ計算に含むのはどれか③賃上げする従業員の範囲④年金を受けている従業員への対応⑤従業員減による給与総額減で、賃上げしていないように見えてしまう問題について―の5点。

 これらの見解を、税理士法人小島会計(深川)の目黒久美子札幌Office事務長、中村恒之社員税理士の2氏に示してもらった。

■役員報酬を含む

 最初の質問は「賃上げ計算の際、役員報酬は含まれるのか」。賃上げの確認は、契約担当官が「法人事業概況説明書」か「給与所得の源泉徴収票などの法定調書合計表」の特定の項目で前年比を計算し、大企業は3%、中小企業は1.5%上昇しているかを調べる。

 後者の給与所得の源泉徴収票などの法定調書合計表は、素人目では役員報酬が含まれるかどうかの判断がつかない。

 2氏の見解は「役員報酬は含まれる」で一致。注意点としては、「役員報酬は税法上、定期定額と決まっている。途中で変更すると法人税に跳ね返ってくるため、安易に役員報酬による賃上げを考えてはいけない。決算期に変更する分には問題ない」という。

■手当は全て計算

 次の質問は「従業員へのさまざまな手当のうち、賃上げ計算に含まれないものなどはあるか」。これについても2氏は「全て含まれる」との見解で一致する。根拠は国税庁が示している給与所得の概要。これによれば、課税・非課税の別はあるものの、手当は全て賃上げ計算に含まれることになる。

■全従業員が対象

 3番目の「賃上げの対象となる従業員の範囲」については、中村税理士が「閣議前提の事務連絡から来ている取り組み。国民全員の賃上げをしましょう、という趣旨だと読み取れるので、雇用形態に関わらず従業員全員としなければ問題になるのでは」と見る。目黒事務長も「労働基準法に基づく雇用形態となっているもの全て」だと補足する。

■年金受給者対応

 4番目の質問は、従業員が年金受給者の場合に関する疑問だ。目黒事務長は「年金受給者は、年金を含めた総報酬月額相当額が47万円を超えると、もらえる年金がゼロになってしまう場合がある」と説明する。

 ここから考えられる問題は、「年金を含めた月収入が47万円を超えるので、賃上げはしないでほしい」という従業員が出てくる可能性があること。

 こうなると、賃上げ企業を評価する入札の参加時に提出する「従業員への賃金引き上げ計画の表明書」の作成が困難になる。従業員代表者の同意を示すサインが必要となるからだ。

 目黒事務長は「47万円の壁があるため、年金受給者は会社の給与を少なくもらうか、年金を受け取るよりも多く稼ぐかの二極化を迫られる。年金受給者の労働時間をカットする手もあるが、生産性が下がり、企業にとってはよくない」と話す。

 また、これは年金受給者だけの問題ではない。賃上げをされたことで、総支給額は上がっても社会保険料控除が増え、実際の手取りが減る場合もある。これを予見した従業員が賃上げに反対するケースも十分に考えられるという。こういった問題をしっかりと把握する必要がある。

■給与総額を確認

 最後の質問は、中小企業の賃上げ確認は、1人当たりの平均受給額ではなく「給与総額」の上がり幅を見るため、従業員の減少による給与総額減があれば、実際に1人当たりの賃上げがなされているのに、そのように見えない場合だ。

 国の通知には「上記書類(法人事業概況説明書、給与所得の源泉徴収票などの法定調書合計表)により賃上げ実績が確認できない場合でも、税理士または公認会計士などの第三者によって賃上げ実績を確認できる書類が提出されれば、上記書類に代えられる」旨の記載がある。

 この税理士らが用意する書類について、「総勘定基帳を見たり、賃金台帳の比較などをすることになる」と2氏。この点の注意として目黒事務長は「法人事業概況説明書などに記載する従業員数などが最新のものになっているか、早めの確認を。経理担当者と詰め、税理士との数字の合わせが必要です」と企業代表者に向けてアドバイスする。

■トラブル回避へ

 今回の賃上げ企業の総合評価加点措置は建設業界に大きな波紋を呼んでいるが、それは各企業を担当する税理士業界にも及ぶ。各企業は従業員、税理士と詳細まで詰めて話し合い、併せて提出書類に記入されている数字の確認を慎重に進め、回避可能なトラブルを未然に防がなければならない。

 今後、北海道建設業協会が国土交通省に投げ掛けた各質問への回答、国からの制度の改定通知などが出るごとに、再度概要を注視する必要がある。


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