峠とは山道で上りから下りにかかる境のことをいうが、「物事の絶頂の時期」(『広辞苑』)の意味でもよく使われる。眠る患者の横で医者が家族に「今夜が峠です」と宣言しているテレビドラマなどの情景を思い浮かべる人もいよう
▼真壁仁の詩「峠」も本来の峠を語りながら、人生に思いをはせる作品だった。冒頭の一節を引く。「峠は決定をしいるところだ。峠には訣別のためのあかるい憂愁がながれている」。峠には来たが山は深く先はまだ見通せない。さてどうするか。真壁はこう続ける。「ひとつをうしなうことなしに 別個の風景にはいってゆけない。大きな喪失にたえてのみ あたらしい世界がひらける」。われわれも今まさに、難しい決定を迫られている
▼変異株〝オミクロン〟により全国で爆発的に広がっていた新型コロナウイルス感染の第6波が、峠を越えたそうだ。厚生労働省に助言する専門家の組織「アドバイザリーボード」が16日、2月上旬にピークを越えたとの見解を明らかにした。筆者も本道感染者数の1週間移動平均を算出して見ていたが、やはり2月10日を境に減少へ転じていた。札幌市が15日更新した2月3日時点の実効再生産数も0・89と1を切っている。本道も下り坂に入ったのは間違いなさそうだ
▼社会生活の正常化に向け対策を変更する局面だが、相変わらず政府の動きは鈍い。多くの自治体もエビデンス(裏付け)のない「まん延防止等重点措置」の延長を求めている。感染者数は峠を越えても、政策決定者たちは新しい世界を前に足踏みを続けているようだ。