まだ雪の残る土手の斜面から、ひっそりと顔をのぞかせている萌黄浅緑色のフキノトウほど春の訪れを感じさせるものはない。無機質なモノトーンの世界にぽつりと現れる色鮮やかな点。見た瞬間、思わず笑みがこぼれる
▼歌人斎藤茂吉も同じ心境だったようだ。こんな歌を残している。「まぼろしに現まじはり蕗の薹萌ゆべくなりぬ狭き庭のうへ」。まだ姿も見せていないフキノトウを想像して喜んでいるのである。雪が多い今季の札幌などでは、フキノトウを拝めるのもいつになることやらと半ばあきらめていたが、実際はそう遅くもないようだ。札幌管区気象台が17日発表した向こう1カ月の北海道地方天気予報によると、平均気温は高い確率50%で暖かい日が続く見込みという。特に2週目の26日からはそれが70%にもなる
▼日本海側、オホーツク海側、太平洋側いずれも同じ傾向らしい。冬型の気圧配置が弱いため寒気の影響を受けにくく、降雪量が少ない上に日照も多いというのだから言うことはない。「天ぷらのどれかが蕗の薹という」山口賢治。眺めるより食べる方が好きという人も多かろう。雪解けが早いなら、山へ山菜の様子を見に行ってみようかと考える気の早い人も出てくるに違いない。ただ、焦りは禁物である
▼大量の積雪があるところで急に気温が上昇すると、雪崩の発生とヒグマの出没、二つの危険性が同時に跳ね上がる。ミイラ取りがミイラになっては元も子もない。山の雪がある程度落ち着くまでは、秘密の収穫場所やほろ苦い味を想像しながら楽しんでいるのが無難だろう。