昭和の中頃までは縁日の見世物小屋の前で、おどろおどろしい呼び込みが聞かれたものである。覚えているとすれば年配の人だろうか
▼出演するのはろくろっ首やへび女といった奇怪な存在。通りをそぞろ歩く客に興味に持たせ小屋に引き入れようと、口上師ががなり立てる。「親の因果が子に報い―」。いわゆる子どもだましだが、怖い物見たさが刺激される。もっとも、人権意識の高い今の世の中では通用しまい。元はといえば仏教の因縁話を雑につまんだ俗論である。親の悪業が超自然的な作用で子に不幸をもたらすなど単なる迷信にすぎない。そう信じたい気持ちは分からぬではないものの、親の行為に責任のない子どもに理不尽な結果を押しつけるのは筋違いだろう
▼ところが最近も似たような例を見た。ロシアのスポーツ選手たちが次々と国際大会から締め出されているというのである。残虐なウクライナ侵略を進めるプーチン大統領の悪業の報いが、ロシア国民たるスポーツ選手に行っている格好だ。国際オリンピック委員会(IOC)の決定が大きかった。2月28日、ロシア選手や関係者を国際大会から除外するよう各国際競技連盟へ勧告したのである。国際スケート連盟がすぐに同調。国際サッカー連盟や世界陸連、世界ボクシング協会も後に続いた
▼スポーツ界としてはいささかやりすぎでないか。選手がプーチン支持を表明し自ら辞退するならともかく、国民というだけで排除するのは逆に分断を招こう。異形の見世物とせず、一競技者として扱うことで非道な侵略との差を際立たせたい。