洋の東西を問わず、中世のころは馬に乗って敵と闘う騎兵が戦の花形だった。高さと速さを兼ね備えた攻撃の破壊力はすさまじく、圧倒的な機動力で並み居る敵を蹴散らす。まさに向かう所敵なしである
▼ただしそれも鉄砲が戦の場に現れるまでのこと。遠く離れた場所から馬の足一本でも撃たれると騎兵の優位性は一挙に失われる。日本での転換点は織田信長・徳川家康連合軍が鉄砲隊を組織した長篠の戦いらしい。「将を射んとすればまず馬を射よ」のことわざもある。どんなに強く見えても、必ずどこかに弱点はあるということだろう。それが狙いの大きさに比べ、びっくりするほど小さい場合もしばしばである
▼今回のトヨタ自動車の件も思わぬ所に弱点があった。国内14工場28ラインの稼働を全て止める事態に発展したサイバー攻撃の話である。実際にシステム障害が起きたのは樹脂部品製造の協力会社小島プレス工業(愛知)だったが、部品が供給されないため本体の工場までもが停止に追い込まれた。小島プレスの社内サーバーに障害が発生したのは2月26日だった。原因は盗んだデータを使えなくする身代金要求型のウイルス「ランサムウェア」への感染である。脅迫メッセージも確認されたそうだ
▼2日には別のシステムを利用し全工場を再開させたものの、生産への影響は1万3000台に及んだという。現段階でこの犯罪が本丸のトヨタを狙ったものかどうかは不明らしいが、図らずも馬の足を射れば大将を落とせる事実は広く知られることになった。早急な守備陣形の見直しが迫られる。