明治時代初の内閣となる第1次伊藤博文内閣で司法大臣を務めたのは山田顕義という人物だった。出身は山口県。吉田松陰の指導する松下村塾で学び、西南戦争では反乱士族の鎮圧に当たり名を上げた
▼元服時に松蔭から授かったこの漢詩を生涯にわたり大切にしていたそうだ。「立志は特異をとうとぶ 俗流ともに議し難し 身後の業を思はず しばらく目前の安をぬすむ 百年は一瞬のみ 君子素餐するなかれ」。志を立てたら世俗の意見や誘惑に流されず身を賭して働け、時の流れは速い、徒食している暇はないぞ―と教える。「素餐」とは功績も才能もないのに高い位にいて報酬を受けることをいう。山田は岩倉使節団に随行して法律の重要さに目覚め、日本大学の前身「日本法律学校」を開いた日大の学祖である
▼2019年に創立130周年を迎えたその大学で昨年まで5期13年間、理事長の座に君臨してきた田中英寿被告は今何を思うのか。巨額脱税で所得税法違反の罪に問われ、裁判が進んでいる。田中被告は医療法人などから受け取ったリベートを税務申告せず、約5200万円を脱税した。おとといの公判で検察側は懲役1年、罰金1600万円を求刑。弁護側は被告が事実関係を認めていることから執行猶予付きの寛大な判決を求めた。判決は29日に言い渡される
▼「君子素餐するなかれ」。その言葉がむなしく響く。山田もまさか130年後、松蔭先生の教えと真逆のことをする人物が大学の後継者になるとは考えもしなかったろう。下される判決以上に学祖の精神を傷付けた罪は重い。