本当にその通りだと思わされることわざの一つに、「名物に旨い物なし」がある。国会の名物もやはりそうでないか。〝やじ〟である。どうにも食えないものが多い
▼ところが当の議員たちは案外そう考えていないようで、したり顔で「やじは国会の華」とうそぶく。プロ野球などで観客から当意即妙のやじが飛ぶと、観客が沸くし選手も大いに奮い立つ。あれと同じだというのである。同意する国民は少ないだろう。『広辞苑(第三版)』で「やじる」を引くとこうある。「他人の言動をひやかし嘲弄して妨げる」。どう言い繕おうと道徳の教科書に載せられるべき行為ではない。まあ、そもそも政治家に上品さを期待するのが間違いか
▼それはそうと国会ではないが、最近も政治絡みでやじが焦点になる出来事があった。2019年7月に安倍元首相が札幌市で街頭演説をした際、やじを飛ばして警察官に排除された2人が道に損害賠償を求めた裁判で、札幌地裁は道警の行為を違法だったと認定したのである。表現の自由は最大限守られねばならないとの趣旨だった。妥当な判断だろう。やじは一般に品位がなく礼儀にも欠けるが、政治的な意見を表明する権利を奪っていい理由にはならない。品位と違法性は分けて考える必要がある
▼ただ、今回の裁判でやじが市民権を得た、との風潮があるのには少々違和感を覚える。安倍元首相も国会ではやじが目立つ人物だった。それには眉をひそめる人がほとんどだったはず。やはりやじは本来、迷惑な行為。意見はそれが生きる場でこそ輝きを放つものである。