よく「恋は盲目」というが、「正義」もまた目を曇らせるものであるらしい。脳科学者の中野信子さんによると、人の脳は自分に正義があると思った途端、自らを客観的に見る機能を止めてしまうそうだ。『生贄探し 暴走する脳』(講談社+α新書)に記していた
▼「自分こそ正義、自分こそ知性、と思っている人ほどブレーキがオフになりやすく、正義の快さにあっという間に人格を乗っ取られてしまう」という。職場や学校でパワーハラスメントが絶えないのも同じ理由からなのだろう。上司や先生など優越的な立場の人は得てして自説の正しさに固執しがちである。こちらもそんな事情だったのでないか
▼滋賀県の市立大津市民病院で、多くの医師がパワハラを理由に退職の意思を表明した一件である。京都新聞が伝えていた。きのうまでに外科系の診療科を中心に19人の医師が退職。さらに増える見込みという。同病院の前理事長や院長から不当に退職を促されたり、人員削減を命じられたりしたようだ。道立江差高等看護学院でも数年前から教員が学生に繰り返していたパワハラがあり、3月29日に教員らへの懲戒処分が決まったばかり。こちらは学生に対し、「死んだ方がいい」「指導する価値はない」といった暴言が常態化していたと聞く
▼この2件はたまたま表に出たが、似た例は他にもたくさんあるに違いない。中野さんは先の現象を「正義中毒」と呼び、誰でも陥る可能性があると警鐘を鳴らす。自分を客観視する機能が知らない間にオフになっていないか。自分だけは大丈夫、が危ない。