外交交渉の経過を聞き、相手国と話がかみ合っていないと思うときはないだろうか。共通の課題について議論しているはずなのに、それぞれ全く別のものを見ている感覚にとらわれたりして
▼どうやら勘違いではなさそうだ。言語学者ガイ・ドイッチャー氏の著書『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』(早川書房)に教えられた。タイトルそのままの現象が起こるのである。言葉の影響は思いのほか大きいのだ。例えば世界には、無生物に男性か女性の属性を与える言語がかなりあるという。橋はスペイン語で男性、ドイツ語では女性といった具合。その印象を調べてみたところ、スペインでは「頑丈」「強い」、ドイツでは「優雅」「可愛い」と顕著な違いがみられたのだとか。日本人にはピンとこない感覚である
▼属性は一例にすぎないが、言語が違えば世界の見え方も変わるということだろう。糸が複雑怪奇に絡まったままほどけない日本と韓国の外交関係も、そんな事情が背景にあるのかもしれない。岸田首相が26日、尹錫悦韓国次期大統領が派遣した「政策協議代表団」と面会した。尹氏は文在寅現大統領の反日路線とは一線を画し、日韓関係改善に取り組む意思を表明している。首相はその姿勢を評価したようだ
▼ただ、いわゆる慰安婦や徴用工の言葉に日本とは別のものを見ている韓国が、今後どうなるかは未知数だ。「最終的かつ不可逆的な合意」の文言を大事にする気があるかどうかも分からない。国際法や史実に基づく日本と共通の言葉を持たねば関係改善は難しい。そこからである。