チミン、アデニン、グアニン、シトシン。栄養ドリンクの成分表示に記されているような単語だが、聞き覚えのある人も多いのでないか。生命の遺伝情報が書き込まれたDNAを構成する4種類の核酸塩基の名前である。高校の生物の授業で、最初に暗記させられたのがこれだった
▼地球上に存在する多種多様かつ複雑な生命体の全てが、たった4種類の核酸の情報を基に組み立てられている事実に驚いたものである。生物学者の福岡伸一青山学院大教授が『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)で、謎を秘めたDNAをジグソーパズルに例えていた。ジグソーはピースの形状が全部違うため、絵柄が分からなくても凸凹を合わせていけば完成させられる。DNAも同じで、違う形を持つ核酸が自然と一定の情報に組み上がるのだという
▼そのDNAと、やはり遺伝情報を持つRNAを構成する塩基合わせて5種類が、隕石から検出されたそうだ。生命の宇宙起源説を裏付ける有力な材料になるかもしれない。発見したのは北大低温科学研究所の大場康弘准教授らのグループ。先月27日に発表した。これまで数種の塩基が見つかる例はあったものの、遺伝機能発現に必要な全ての塩基が一つの隕石から検出されたのは世界初らしい
▼生命はこの惑星の元素がさまざまに化学変化した結果生まれた純地球産か、外から持ち込まれた基本素材を地球が育てた宇宙産かで議論が分かれていた。これで答えが出たとはいえないが、〈地球生命の起源〉というジグソーパズルの主要ピースがパチリとはまった感もある。