菅義偉前首相は官房長官を務めていた2020年6月、豪雨による洪水被害防止のため発電や農業用ダムにも洪水調整機能を持たせる大胆な行政改革を実施した
▼そんな当たり前の決定に「大胆」の文言は大げさと感じるかもしれない。ところがそれまではそんな当たり前のことも、縦割り行政の弊害で実現できていなかったのである。各ダムを所管する省庁が、目的外利用は断じて認めないと言い張っていたわけだ。国内のダムを一元管理し、うまく活用すれば洪水被害を減らせることは誰にでも分かる。ただ、所管省庁としては何かあったときに責任を取りたくない。いつものお役所体質である。結局、住民への注意を強めるだけで、活用は長く棚上げにされてきた
▼経済産業省が17日、電力需給が逼迫(ひっぱく)する可能性がある場合、家庭や企業に節電を呼び掛ける「注意報」を出す方針を固めたとの報を聞き、菅氏の仕事を思い出した次第。注意もいいが、国として先にやるべきことがあるのでないか。ロシアのウクライナ侵略で石油やLNGを巡る世界の構図は様変わりした。調達は今後難しく高価になる一方だろう。今のままでは電力事情の悪化は避けられない。それなのに石炭火力発電所は廃止が相次ぎ、能力のある原子力発電所はほとんどが止まったままだ
▼既存設備をうまく活用すれば、電力需給の逼迫など起こらないことは誰にでも分かるのにである。電力も対策として下流に注意を求めるより、上流を万全にした方が効果は高い。経産省も政治家もいつまでお役所仕事をしているのか。