友だちとはいつも一緒にいて、仲良く笑い合える関係と考える人がほとんどでないか。詩人の高村光太郎は少し違ったらしい。「友よ」という作品にそれが示されていた
▼後段の一節を引く。「友とは同じ一本の覚悟を持つた道づれの事だ 世間さまを押し渡る相棒だと僕を思ふな 百の友があつても一人は一人だ 調子に乗らずに地でゆかう お互にお互の実質だけで沢山だ その上で危険な路をも愉快に歩かう」。岸田首相が23日、日本を訪れたバイデン米大統領と会談したとの報に触れ、その詩を思い出した。同盟関係とはまさにそういうものだろう。戦争の抑止と平和維持のために、それぞれが応分の責任を果たす。ただの仲良しこよしではない
▼どちらかといえば存在感の薄い両首脳だが、会談の内容は濃かったようだ。首相が防衛力の強化と裏付けになる防衛費の増額、「反撃能力」の確保を表明すると、大統領も米国の「核の傘」や通常戦力による「拡大抑止」を約束。強固な同盟関係を印象づけた。日本では小声で語られるのが常だった防衛費の積極的増額や反撃、核といった言葉が、具体性を伴って違和感なく前面に出てきている。ロシアのウクライナ侵略で日本でも戦争の危機を真剣に考える空気が醸成されたからに違いない
▼戦争は話し合いで回避できる、防衛問題については議論もしたくないといったいわゆる「お花畑」論的反発が今回大きくないのも事情は同じだろう。戦争を前提に置かねばならないのは悲しい現実だが、「危険な路を愉快に」歩くには日米同盟の強化が必要である。