独裁国の特徴は徹底したエリート主義にある。国家指導者の価値観が絶対で、それを信奉する者たちのみがまともに生きる権利を持つ。ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)を率いた20世紀最悪の独裁者、アドルフ・ヒトラーもかつてこう主張していたそうだ
▼「エリートの中のさらに強者だけが生き残るのだ。その試練の中でたとえ我が民族が滅びても、私は涙しないだろう。それがその民族の運命なのだから」。ヒトラーは自分の理想通りのドイツにならないなら、滅んでもいいと本気で考えていたらしい。独裁者がどれだけ思い上がっているかが実によく分かる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記も、ますますそちら側への傾斜を強めているようだ
▼北朝鮮がおととい、日本海に向けて短距離弾道ミサイル8発を発射した。1日の発射回数としては、これまでで最も多いという。ミサイルや核爆弾といった軍事技術の向上には金に糸目を付けないのに、まん延する深刻な貧困と新型コロナにはお構いなしだ。国連世界食糧計画など複数の機関は数年前から、北朝鮮では数百万人が飢餓状態に陥っていると警告している。人口2500万の国で数百万人が飢餓なら安楽な生活をしている人はほんの一握りだろう。党関係者と軍高官のみでないか
▼資源のほとんどを軍事に投入。金正恩氏の思想を信奉し、この試練を乗り越え生き残ったエリートの中の強者だけが、真の北朝鮮民族というわけだ。日本海に向けて発射された8発は、一般の北朝鮮国民をも同じだけ痛め付けている。狂気の沙汰というほかない。