地球の生命は原始大気に雷の強力なエネルギーが加えられたことで発生した。年配の方々は学校などでそう教えられたのでないか
▼科学が好きな子どもだったなら〈ユーリー・ミラーの実験〉も覚えていよう。水やメタン、アンモニア、水素といった原始大気と組成が同じ気体をフラスコに封入し放電と加熱を繰り返す実験である。原初の地球環境を再現したわけだ。結果、生命に必要なアミノ酸の出現が認められた。実験は1953年。生命誕生の謎は解けたと長らく思われてきたが、今は否定されている。研究が進み、原初の環境がミラーの想定と違っていたことが明らかになったのだ。そんな化学的発生説に代わって主流の座を占めたのが、それまではSFの世界と考えられていた地球外起源説だった。宇宙由来のアミノ酸が次々と発見されたためである
▼そこにまた一つ、有力な証拠が追加されるようだ。小惑星探査機「はやぶさ2」が昨年持ち帰った砂や石から、数十種類のアミノ酸が検出されたそうだ。小惑星「リュウグウ」には、やはりすごい宝が眠っていたのである。地球外で採取した試料から直接、アミノ酸を検出した例はもちろん世界で初めて。最低でも15種類、細かく分類すると20種類以上のアミノ酸が確認できたそうだ
▼リュウグウにあったということは、宇宙には生命の基本物質があまねく存在することを意味している。生命の地球外起源説を超え、宇宙が生命にとって実は豊穣の空間である可能性を示す事実だろう。生命研究の旅はフラスコから宇宙へ飛び出した。興味は尽きない。