俳優松平健と聞いて思い浮かぶのは今なら派手な衣装で歌い踊る『マツケンサンバ』、一昔前なら時代劇の『暴れん坊将軍』(テレビ朝日)だろう。江戸幕府8代将軍徳川吉宗の活躍を描くドラマである
▼松平さんの演技を見慣れているせいか、吉宗というと悪には厳しいが情に厚く聡明な人物とのイメージが強い。実際そうだったようで、当時の刑法を厳罰主義から更生に重点を置いた制度に変えたのが吉宗だった。「公事方御定書」である。幕府は開府以来、犯罪者に対しては死罪や遠島、所払いなど社会から排除する方針をとってきた。吉宗はそこに「敲(たたき)」を加える。むち打ちの後、身元引受人に預け、やり直しの機会を与えたのだ
▼過ちを犯した者をまっとうな道に戻す方が、長い目で見て犯罪を減らせると考えたらしい。やはり名君。時代を先取りしていた。参院本会議で13日成立した改正刑法も、更生と再犯防止を一層進めるためのもの。懲役刑と禁錮刑を「拘禁刑」に一本化したのである。懲役刑は刑務作業が義務化されているため、矯正教育や更生プログラムに割く時間を作りづらかった。作業自体に懲罰と教育の効果があるとはいえ、ともすればそれだけで終わりがちだったのだとか
▼刑を拘禁とすることで受刑者の自由を制限しながら、作業と教育の最適計画を設定できる。それで犯罪を減らせれば言うことはない。刑期を勤め上げても真に更生していなければ意味がないのだ。この改正で受刑者は罪と向き合う機会が増えよう。自らをたたいてまっとうな道に戻ってもらいたい。