IT系ニュースサイトのプログラマー香山秀行は本道斜里町に骨休みを兼ね出張に来ていた。仕事で自信を失い、社内の立場にも疑問を感じていたため静かに考える時間がほしかったのだ
▼といってもこれは現実の話ではない。伊藤瑞彦さんのSF小説『赤いオーロラの街で』(ハヤカワ文庫)の導入部である。香山は着いて間もない夜、知床へヒグマを見に行く。ところがそこで目にしたのは不気味な赤い光だった。翌朝、電気も通信も使えなくなっているのに気づく。世界規模の停電が起きていた。原因は太陽フレアの大爆発。変電設備が全て壊れた。復旧まで最低3年。電気のない生活が始まる。赤い光は普段見えるはずのないオーロラだったのだ
▼3年はさすがにSF的誇張とはいえ、現実に大きな影響が出るのは避けられないらしい。総務省が先週、太陽フレアによる被害想定を公表した。3年後の2025年に活動が活発化し、高エネルギー粒子の放出や太陽風によって磁気の乱れが激しくなるという。最悪の場合、携帯電話やテレビなどの放送が2週間程度、利用できなくなるそうだ。GPSや気象の衛星にも誤差が生じ、カーナビや天気予報の精度が落ちる可能性も指摘されている
▼国内の主要変電設備は対策済みのため心配はなさそう。ただ、備えがない所では広域停電の恐れもあるというから、用心はしておいた方がいいかもしれない。先の小説で世界は資源を奪い合い、戦争寸前まで行く。そんなことはないと笑い飛ばしたいが、今の世界は時にSF以上の事態が起きるから油断できない。