究極の選択としてよく例に挙げられる倫理学の難問「トロッコ問題」をご存じだろう。こんな思考実験だった
▼制御不能のトロッコが線路上を猛スピードで走行している。前方には何も知らない5人の作業員。このままでは全員死亡だ。ただ、途中にポイントがあり、たまたま一人の男がそこに居合わせた。切り替えればトロッコを別の線に引き込めるが、何とそちらにも作業員が1人いる。さて男の取るべき行動は。人数を最重視し、1人を犠牲にして5人の命を救うか。ポイントに自分がいなかった場合の元々の運命に従って見て見ぬふりをするか。トロッコはもうすぐそこまで来ている。もはや一刻の猶予もない。今の新型コロナウイルス感染拡大第7波は、この思考実験を現実に突きつけているように見える
▼第6波を上回る勢いで拡大する感染を食い止めるのに緊急事態宣言などの発出を求める声も上がっているが、ここでまた社会経済活動を止めると倒産や失業、自殺がさらに増えることは間違いない。コロナ関連の中小企業向け融資は若干見直されたものの、一部では償還が始まっている。そんな中での行動制限は苦境に立つ企業にとどめを刺すものとなろう。このコロナ禍では女性や若年層の自殺が顕著に増えたことも明らかになっている。希望や収入が断たれたからだ
▼社会経済活動を止めず真っ直ぐ行っても、進路をずらして外出制限を強めても、それぞれ別の形で犠牲者が出る。「トロッコ問題」に正解はないが、コロナ問題には答えを用意せねばならない。さて、政府の取るべき行動は。