最初に日本へ来た英国人とされる航海士ウイリアム・アダムズは、高い見識と豊かな国際感覚を持っていたようだ。面会した徳川家康はいたく気に入り、政治・外交顧問として迎え入れる。三浦按針という日本名と家屋敷も与え、ずいぶん重宝したらしい
▼家康が頼りにするため、按針の影響力はどんどん大きくなっていく。貿易でひともうけしようと考える商人たちは何とか按針に取り入ろうとした。世の常だろう。按針は幕府の仕事をきっちりこなしながら、個人でも独自に取引をしていたそうだ。英国に帰る資金を貯めていたとの説もある。想像だが有望な商人に自ら私的取引を持ち掛けたこともあったろう
▼特権を行使できる人物の中には、ひそかに大金を手に入れられる誘惑にあらがえない者もいる。今回もそれだろうか。東京地検特捜部が26日、受託収賄容疑で東京五輪・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事の自宅や、関係先の大手広告代理店電通を家宅捜索した。聴取も近く行われると聞く。紳士服大手のAOKIホールディングスを大会スポンサーにする見返りに、高橋氏のコンサルタント会社が計約4500万円を受け取っていた疑いがあるのだとか。委員会の理事は「みなし公務員」のため、職務と賄賂の関係が立証されると罪に問われる
▼按針も家康の没後は半ば追放された形になり、不遇の人生を送らざるを得なかった。積極外交を進めた実績が、二代将軍秀忠に警戒されたのである。強力な後ろ盾のあるうちは、自分が特権を持つことに案外気づけないものなのかもしれない。