釧路の夏の名物といえば、間違いなく海霧もその一つである。『放浪記』などで知られる小説家の林芙美子も釧路を訪れたとき、やはり霧の出迎えを受けたようだ。随筆「摩周湖紀行―北海道の旅より―」にこう記していた
▼「釧路へ着いたのが八時頃で、駅を出ると、外国の港へでも降りたように潮霧(ガス)がたちこめていた。雨と潮霧で私のメガネはたちまちくもってしまう」。海霧は濃く、近い所も見えない。旅情はあるものの不便もある。当方も釧路に住んでいたころ、見通しの悪さにはずいぶんと悩まされた。海霧は釧路沖で暖流と寒流がぶつかって発生し、夏の南風に乗って押し寄せてくる。釧路市街地が沿岸低地に集中しているせいでやすやすと侵入してくるのだ
▼こちらもそんな地形的側面が大きく影響しているのだろう。道が28日、初めて公表した巨大地震の市町村別被害想定で、津波による死者数が最も多いとされたのは釧路市の8万4000人だった。人口約16万人のおよそ半分に当たる。日本海溝と千島海溝沿いを震源とする巨大地震の被害想定を〈夏・昼〉〈冬・夕〉〈冬・深夜〉の3条件で推計したそうだ。道内の死者数は最大で14万9000人。活動人口が多く避難は遅くなりがちな〈冬・夕〉の場合だった
▼市町村で死者数が2番目に多い4万人の苫小牧市も、やはり霧の街。地形的側面はいかんともしがたいが、早期避難や津波避難ビルなどの整備で最大9割の被害を減らせるというから、心して備えたい。冬には霧が出ないため、避難の邪魔にならないことは幸いである。