英作家J・K・ローリングさんのファンタジー小説『ハリー・ポッター』では、波瀾(はらん)万丈な魔法学校の毎日や仲間との冒険が描かれる。シリーズ化された映画の大ファンという人も少なくないのでないか
▼見どころの一つは魔法界の支配をたくらむ闇の魔法使い「ヴォルデモート卿」と主人公ハリーとの因縁の戦いである。多くの魔法使いはあまりの恐怖から卿を「名前を言ってはいけないあの人」と呼ぶ。ヴォルデモートの名を口にしただけで、ひどい災いが身に降りかかるような気がするのだろう。ところで新型コロナウイルスを巡っても、恐怖からか、高度な政治判断からか、名前を呼ぶのを殊更に避けているものがあるようだ。感染症法上の分類の「5類」である
▼政府新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が2日、第7波への対応として感染者の全数把握の段階的見直しや一般医療施設での受け入れを提言。5類への引き下げに見えるが、その言葉は使われなかった。日本感染症学会など医療4学会も連名で同日、症状が軽い場合は慌てて検査や受診をする必要はないとの声明を発表。ところが、やはり5類の文言はない。感染者と濃厚接触者を全数把握し隔離する現行の2類相当の運用が、現実にそぐわないとの内容なのにである
▼すっかり「名前を言ってはいけないあの類」になっているようだ。それもこれも政府が呪文のごとく、「今は見直しの時期ではない」と繰り返しているからだろう。国民にとって決断の先送りしかできない政府ほど怖いものはない。