方程式と聞くと数学でつまずいたことを思い出し頭が痛くなる人もいるのでないか。当方もその一人である。xだのyだのzだの、値を変える正体の分からぬ数字にどれだけ翻弄(ほんろう)されたことか
▼そういった記号で示される値が変わる数字を変数と呼ぶ。例えば〈x+y=z〉で、xが1、yが2ならzは3になる。これくらい単純だといいが、実際には2乗や分数、複雑な構造が出てくるからややこしい。ただ、現実の問題に比べれば、その難しさは取るに足らないものかもしれない。社会状況という変数が予測できないためである。とはいえ岸田首相はやっと日本が抱えるエネルギー問題の複雑な方程式を解き、一つの答えを見いだしたようだ
▼原子力発電所に関して、これまで新増設はしないとしてきたエネルギー政策の基本方針を転換。開発や建設を検討する方向を打ち出したのである。首相官邸で24日開いた脱炭素社会の実現に向けた会議で表明した。東日本大震災で止まった時計が動き出す。異常気象による電力需給の逼迫(ひっぱく)、ロシアのウクライナ侵略で生じた天然ガスと原油の不足、脱炭素社会への移行と、xyzの値が決まったことで答えを出しやすい環境が整ったのだろう
▼政府が検討する次世代原子炉は小型モジュール炉といわれるタイプだ。構造と物理特性だけで安全を確保できるため特別な安全装置は必要ない。1つ当たりの出力は小さいが、つなげれば需要に見合った電力を用意できる。次の課題は国民の意識だろう。こちらの方程式も解くのはなかなか難しい。