児童文学『クマのプーさん』で知られる英作家A・A・ミルンは、エッセーの名手でもあった。風刺とユーモアを織り込んで日常を描くのが得意だったらしい
▼その一つに「昼食」という話がある。主張は「食べ物は会話の話題としては天候よりも新鮮で面白い」。なぜかというと食べ物の好みは人によって大きく違うため、熱っぽく議論を戦わせることができるからだという。逆に意見が一致すると親密の度が増す。確かにその通り。〝主食はパンか米飯か〟〝焼き鳥は塩に決まってる〟〝ホヤが好きな君とは良い友だちになれそう〟。食べ物のことだと小さな話題にもつい熱が入る。誰にでも関係する値段の話ならなおさら黙ってはいられまい
▼今月は生活に身近な多くの食品で値上げが予定されている。報道によるとメーカーによって幅はあるものの、例えば家庭用のマーガリンやチーズ、スナックやチョコレートなどのお菓子類、コーヒー、ハムは3―20%程度値上げされるそうだ。たまったものではない。1品当たりは数十円でも、毎日のことだ。まとまればすぐに数千円、数万円の負担増になる。ボディブローを食らい続けたボクサーのようなもので、気がついたら膝から崩れ落ちているかもしれない
▼値段は変えずに中身の量を減らす商品も少なくない。新型コロナやウクライナ情勢で原材料価格や燃料費が上がっているからだと理解してはいるが、こう値上げばかり続くと家計がもたない人だって出てこよう。スーパーで小さくなったちくわをじっと眺めている人を見ると、思わず親近感が湧く。