不運なことばかり続くと、〝何か悪いものに取りつかれているのではないか〟などとばかげた考えがふと頭をよぎることがある。SF作家小松左京さんの作品の中にもそんな短編があった
▼ある夫婦の日常が冒頭で描かれる。「子供の病気や、離れのぼやや、物価はやたらに上がるし、ケネディ暴落で、わずかな株は底値ではなしてしまう」。しかもやっと買った土地は詐欺で、ボーナスも電車ですられてしまう始末。まさに踏んだり蹴ったりである。題名は「さらば、貧乏神」。先祖代々伝わる〝貧乏神のため開けるべからず〟と書かれたつぼを、夫婦が面白がって開けてしまったのだった。貧乏神が待ってましたとばかりに大暴れを始めたのである
▼最近の日本も誰かがつぼを開けてしまったのではと思いたくなるくらい厳しい状況が続く。コロナ禍からの立ち直りは世界に後れを取り、株価は乱高下。史上まれに見る円安に見舞われ、ロシアのウクライナ侵略に端を発するエネルギー危機の直撃も受けている。物価も文字通り「やたらに」上がっている。日銀が13日発表した8月の国内企業物価指数は前年の同じ月と比べ9.0%上昇し、115・1を記録した。過去最高水準という。企業間取引の数字とはいえ、1年で1割近く上がれば消費者に影響しないわけがない
▼既に生活が立ちゆかなくなっている人もいよう。貧乏神にお引き取り願うため、早急に有効な施策を打ち出す必要がある。さて政府はどうするか。住民税非課税世帯に5万円の給付を決めたそうだ。なるほど貧乏神の力はあなどれない。