大きな仕事をして多くの人を危機から救ったのにもかかわらず、世に知られることはない。本当のヒーローとはそういうもの、との考えがある
▼歌手の中島みゆきさんもNHK『プロジェクトX 挑戦者たち』のエンディング『ヘッドライト・テールライト』でこう歌っていた。「語り継ぐ人もなく/吹きすさぶ風の中へ/紛れ散らばる星の名は/忘れられても/ヘッドライト・テールライト/旅はまだ終わらない」。誰に知られなくとも、人々のためにという自らの使命感だけで前に進むヒーローたちの姿が目に浮かぶ。先週、日本を襲った台風14号でも、そんな目立たぬヒーローたちが被害軽減にひと役買ったらしい。懸念されたほどの災害にならなかった。ただし人ではなくダムである
▼洪水調整のため過去最多の123箇所で事前放流が実施されたのだ。菅義偉前首相が官房長官時代、豪雨による被害が想定されるときには、発電用や農業用のダムも国土交通省が一元的に運用できるようにした施策である。今14号は上陸時気圧が935で過去4番目に強い台風だった。1番が「第2室戸台風」、2番が「伊勢湾台風」、3番が「平成5年台風13号」で、いずれもすさまじい被害をもたらしている
▼もちろん台風災害は風や雨、潮の複合型のため全てをダムで対処できるわけではない。とはいえ河川の水位上昇をいくらか抑えるだけでも多くの命と財産、生産施設が救われる。ダムが貢献した度合いを数値化するのは難しいが、結果を見れば決して小さくはなさそうだ。もっと世の中に知られていい。