女性お笑いコンビ〈Aマッソ〉でネタ作りを担当するツッコミの加納愛子さんは子どものころ、父親から「本やったらなんぼでも買ったる」と言われて育ったという。エッセー「大人への扉を開けたのは」に記していた
▼加納さんは全くうれしくなかったらしい。「そらまあ、安いからな」と思うだけ。女の子だから服やゲームがほしい。ところがそれは自分で買えと言われる。そもそも家は既に本でいっぱいだった。本好きな父親だったのである。ただそんな父親でも、昨今のご時世では気軽に「本やったらなんぼでも買ったる」とは言えなかったかもしれない。ちまたでは食品類や燃料の値上げばかり話題になるが、実は本もかなり高くなっているのである
▼例えば手軽に知識を仕入れられて重宝する新書。定価が700円くらいのころの感覚のまま変わっていない人も多いのでないか。今は大体900円以上で、中には1000円を超すものも珍しくない。消費税の影響も大きいが、本体自体が上がっている。本来気楽に買えるはずの文庫も、全体に200円ほど底上げされている印象だ。当方も面白そうだと一度手には取ったものの、値段を見てぎょっとし、そっと棚に戻すことが増えた。紙代や印刷費、運送料の高騰に加え、紙媒体が売れなくなった分を値上げで補っている側面もあると聞く
▼先の加納さんは家での読書が結局「私の夢のほとんどを形成した」と振り返っていた。SNSやユーチューブもいいが紙の本ならではの良さも間違いなくある。父親だって時にはいいところを見せたいだろう。