元高校教師の水谷修さんは深夜の盛り場や公園でたむろする若者たちに声を掛け、更生に導く活動を長年続けている。「夜回り先生」の名をご存じの人も多いだろう
▼若者たちの薬物汚染に関するこんな言葉が印象に残っている。「薬物乱用に対する罰則を強化したとしても、薬物乱用を生み出す社会の問題を解決しない限り、次から次へと法の網をかいくぐって脱法ドラッグなどの新しい薬物が作り出されるだけ」。法的罰則の強化で問題は解決しないというのである。『ドラッグ世代』(太陽企画出版)に記していた。マスコミに押されるようにして今、国会審議が進む旧統一教会系宗教法人への解散命令請求の問題もこれと似ているのでないか
▼つぼや塔などを常識外れの高額で売る「霊感商法」や客観的な思考力を奪う「洗脳」を知る世代として、旧統一教会のしてきたことに厳しい目が向けられるのは理解できる。ただ、もし解散させたとしても、法人がなくなるだけで教義がなくなるわけではないのだ。水谷先生がドラッグで指摘したのと同様、その教義を信奉する集団が法の網にかからない形で数多く作り出されるだけかもしれない。憲法が保障する信教の自由に国が直接手を突っ込みかねない懸念も拭えない。他の宗教団体にも少なからぬ影響が出よう
▼国会で論議されているもう一本の柱、被害者救済のための消費者契約関連法改正をまず形にすべきだろう。勧誘の違法性の見直しや、支え合う社会の仕組みづくりも重要である。宗教に依存するしかない個人を救うことなしに解決は望めない。