社会経験は浅いのに、子どもはときに人生の本質を突く言葉を発したりする。読売新聞「こどもの詩」を集めた『ことばのしっぽ』(中央公論新社)にもそんな詩があった。中学2年(当時)上野佑君の「僕の幸福」である
▼「生きているだけでも幸せなんだよ よくこんな言葉を耳にする 確かにそうかもしれない でもそれは最低限の幸せであって 本当の幸せとはもっと 豪華で華やかなものだと 僕は思う」。「生きているだけでも幸せ」。いかにも大人が言いそうなフレーズである。事実ではあるが、歳を重ねてやっと分かることでないか。言われた子どもが、余計なことは考えるなと我慢を強いられている気がしたとしても不思議はない
▼子どもたちはコロナ禍の中で、どれだけそんな言葉を聞かされてきたことか。「豪華で華やか」どころか、普通の生活を送ることさえ望めない状況だった。不登校の小中学生が今、異常なペースで増え続けているのも、我慢ばかり強いられてきた日々の反動だろう。文部科学省が先月27日発表した児童生徒の諸課題調査によると、昨年度の小中学生の不登校は24万4940人で、前年度を4万8813人も上回ったそうだ。小中高校でのいじめも61万5351件と約2割増え、自殺も後を絶たない
▼文科省も人とのまともな交流を難しくしたコロナ禍の影響が大きいと見て、対策を強化する構えという。文句の言えない子どもにばかりしわ寄せが行ってしまった。「生きているだけでも幸せ」などときれい事を言っている場合ではない。生きる質が問われている。