美食家として知られる芸術家の北大路魯山人は、今生きていれば間違いなく「鍋奉行」と呼ばれていただろう。それだけに焦点を絞った「鍋料理の話」(1934年)という随筆を残しているくらいだ。こだわりがすごい
▼いわく、「材料は生きている。料理する者は緊張している。そして、出来たてのものを食べるというのだから、そこにはすきがないのである」。箸をつけるのも命がけ、といった雰囲気さえ漂う。その他にも、くたびれた材料は入れるな、貝は味を悪くする、たれの濃さは最初から最後まで一定にせよなど注文が多い。新鮮な魚や野菜をその場で調理し、熱々のまま食べられる鍋が魯山人は大好きだったのである。それゆえに思い入れが強い
▼そんな鍋が恋しい季節になった。きょうは立冬。いい(11月)鍋(7日)の語呂合わせで「鍋の日」にも制定されている。本道は先週後半から気温が一段と下がり、平地でも初雪の便りを聞いた地域があるそうだ。ここからは冬本番まで瞬く間である。この時期、日本気象協会が「鍋もの指数」を発表しているのはご存じだろうか。寒さや空気の乾燥具合から「食べたい指数」をはじき出している。100が最高で、先週の道内は80を超えた地域が多かった
▼「遅れ来ていつのまにやら鍋奉行」山根貞子。夏の間眠っていた奉行もそろそろ目を覚まそう。魯山人はさらにこう記す。「私は『なべ料理』の材料の盛り方ひとつにしても、生け花と寸分違わないと思っている」。まあ奉行もほどほどに。われわれはもっと気楽にやろうではありませんか。