それほど頻繁ではないが、買い物や外食をしていると強い調子で店員に文句を言っている人を見ることがある。声が大きいため聞くともなく聞いていると、ただの言いがかりだったりして
▼落語にも「居酒屋」という噺があった。ふらりと訪れた酔客が店の小僧にしつこく絡むのである。小僧が品書きを「おひたし、たら昆布、つゆ、アンコウのようなもの…」と並べると、「じゃあ、のようなもの一つ」とからかう。「タコが赤いな」と鎌をかけておいて、小僧が「ゆでると赤くなるんです」と答えると、「鳥居もゆでたのか、猿の尻は」と万事この調子。迷惑この上ない。今ならカスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれるところだろう
▼お客様は神様と大目に見られたのも今は昔。そんな甘えはもう通用しない。ゲームメーカー大手の任天堂が先月から、製品の修理サービス規定にカスハラの項目を追加した。顧客の暴力や迷惑行為が認定された場合、交換や修理をしない可能性があると明記したそうだ。任天堂といえば顧客の困り事に期待以上のサポートで応える「神対応」で知られる。その会社が対策に踏み切らねばならなかったのだから、事態は相当深刻なのに違いない
▼厚生労働省の2年前の調査で、過去3年間にパワハラを経験した人の割合は31.4%、セクハラが10.2%、カスハラが15%だった。中でもカスハラは他のハラスメントに比べ増加が目立つという。いわゆる「モンスタークレーマー」が増えているのである。「鳥居もゆでたのか」などと絡まれては社員もやっていられまい。