日本の昔話に出てくる道具で、たいていの人が知っている物といえば「打ち出の小づち」も必ず名前が挙がる一つだろう。欲しい物や願い事を唱えながら振ると、それが現れたりかなったりする
▼最も有名なのは「一寸法師」の話で語られた小づちでないか。仕えていた京の大臣の娘が鬼に襲われた際、警護に就いていた一寸法師が鬼の体の中に入って大暴れ。慌てて逃げ出した鬼がうっかり落としていったのだった。この小づちを振って一寸法師は背を伸ばし、娘と結婚。金銀財宝も打ち出し、「末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」というわけである。自分の前にも一つ落ちてこないものか。かなわぬ夢だが、どうやら政府はこれを持っているつもりでいるらしい
▼全ての自動車に加入の義務がある自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)を、来年度から値上げすることにしたそうだ。交通事故の被害者支援に、一層の力を入れるためだという。積立金や運用益では賄いきれなくなったのだとか。意義ある施策で値上げも最大150円程度。悪い話ではない。と思いきや、話には裏があった。財務省が過去に借り入れた保険の運用益約6000億円をいまだ返済していないのである。鈴木財務相が先日、事実を認め謝罪した
▼保険の積立金などは本来8000億円ほどあるが、その75%が消えたのだから苦しいのも当たり前。そこで政府は強制保険を打ち出の小づちに変え、穴埋めしようと考えたのだ。昔話ではよこしまな者が振ると良くないものが出る。まず国民の怒りと不信が飛び出よう。