今は人と人とがウェブで気軽につながる、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)全盛の時代である。現実世界では関係を持てないような相手ともやり取りできるのが人気の要因だろう
▼ただSNSは匿名が多いため新たな現象も生まれた。別の人格を演じる人が増えたのである。中でも目立つのは若い女性のふりをする男性でないか。名前やアイコンはもとより、言葉遣いもすっかり女性になっている。若くてかわいい女性だと思っていたら、実際はむさくるしいおじさんだったりするわけだ。変身願望ももちろんあろうが、本当の自分にこれといった特徴がないときには、魅力的なキャラクターを使った方が注目を集めやすい。SNSではもはや当たり前の光景である
▼そんな「当たり前」が罪悪感を薄めている部分があるのかもしれない。就職希望者が自宅などから受けられる企業のオンライン採用試験で替え玉受験が相次いでいるという。ウェブにはなりすましを請け負う人物も多いのだとか。大阪市の会社員の男が先週、東京都内の女子大生から依頼を受け、不正に代行受験したとして警視庁に逮捕された。容疑は私電磁的記録不正作出。男は10万円を受け取り、23社の受験を代行していた
▼驚いたことに男はこれまで300人の代行をしたと供述しているそうだ。企業としては「疑えば皆怪しげな人ばかり」さいたま(『平成川柳傑作選』毎日新聞出版)といった心境でないか。不心得な就職希望者は、できるキャラクターにやってもらっただけと軽い気持ちだろうが、現実の罪は重い。