日本は失敗を許さない社会だとよくいわれる。武士道精神からくる恥の意識からか、単一に近い民族特有の同調圧力からか、確かな理由は分からない。たぶん幾つかの要因が合わさったものなのだろう
▼完璧を目指すのは悪いことではないが、失敗を許さない雰囲気が逆に失敗を招いたりする。経験のある人も多いに違いない。畑村洋太郎東大名誉教授も、著書『失敗学の法則』(文春文庫)でこんな指摘をしていた。「日本人は自分たちが起こした失敗から目を背け続け、失敗を真っ正面から受け止めることをしてこなかった」。日本が行き詰まる根本の原因はそこにあるというのである。原子力産業もやはり例外でなく、当初からこの「失敗を許さない病」に侵されてきた
▼原子力発電所を巡り、国民は「絶対に事故や故障があってはならぬ」と断じ、発電事業者は「100%安全」と胸を張ってきたのである。結果はご存じの通り。人々は事故や故障に過剰反応を示し、発電事業者は事実を隠すようになった。これでは健全な発展は望むべくもない。放射性物質を扱う事業が高い安全性を求められるのは当たり前。ただ、事故や故障が全く起こらないわけはない。肝心なのは失敗を前提としたリスク管理と情報公開、確実な改善である
▼経済産業省が先日、最長60年の原発運転期間から、審査などによる停止期間を除外する行動計画案を示した。エネルギー資源のない日本は、いましばらく原発を賢く利用していく必要があろう。失敗から目を背けるのでなく、失敗から学ぶ姿勢で長期利用に道を開きたい。