進化の末にたどり着いた動物の形態には驚かされるものが多い。ハリネズミなどもその典型例の一つである。どんな自然淘汰(とうた)を経たら、敵に襲われたときには毛を針にして身を守る不思議な能力を獲得できるのか
▼そのかわいらしい風貌から近年はペットとしても人気だそうだが、元来は敏感で臆病な性格。なつくまでは毛を針にして身を守ろうとし、飼い主にしばしば痛い思いをさせることもあるようだ。ただ、年配の方々がハリネズミと聞いてすぐ思い浮かべるのは、ペットでなく「ハリネズミ防衛論」の方だろう。専守防衛を国是とする日本の立場を説明するため、1970年代からしばらく盛んに使われた言葉である。最近ではほとんど耳にすることもなくなった
▼今度はいよいよ実態としても、ハリネズミにはご退席願う形になりそうだ。自民、公明両党が2日、実務者協議を開き、国家安全保障戦略に敵ミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有を盛り込む方針で合意したのである。専守防衛は維持しながらも、日本への攻撃が確実に実行されると分かった場合は先手を打つ。軍事的混迷が深まる世界では、針を立てて丸まっているだけでは自国を守れないというわけだ。隣にバナナのたたき売りさながら、ミサイルを乱発射する国がいてはなおさらである
▼岸田首相は2027年度に、防衛費を国内総生産(GDP)比2%とする方針も固めたという。ようやく世界標準に近付く。いきなりトラになる必要はないが、激動する世界に合わせて進化しなければ淘汰は避けられない。