ロシアのウクライナ侵略以降、日本でも戦争という言葉を耳にする機会が増えた。衝撃的な映像も現地から連日伝えられている。ただ、現代の戦争を正しく理解している日本人は多くないのが現実だろう。強力な武器で攻撃し合うイメージの人が大部分でないか
▼ロシア軍事に詳しい小泉悠東大専任講師は近著『ウクライナ戦争』(ちくま新書)で、今次の戦争は古い形だが「新型戦争」の側面もあると分析していた。ロシアの軍事理論で新型戦争は「最も恥ずべき手段」を使って敵を打ち破る方法だという。その手段とは敵国の反体制派を操ったり、メディアやインターネットで偽情報を流したりして内部から崩壊させること。情報操作が戦局を大きく左右するのが今の戦争なのである
▼日本も対策の強化に乗り出すらしい。AI(人工知能)を活用した公開情報の収集分析や、フェイクニュースによる情報戦に対抗する体制の構築を進めるそうだ。近く改定する「国家安全保障戦略」など安保3文書に盛り込む。これに関して面白いといっては不謹慎だが興味深い報道があった。共同通信が同じ〝ネタ〟を、防衛省がAIとSNSを使い「国内世論を誘導する工作の研究に着手した」と伝えたのである
▼偽情報による国民の分断と内部崩壊を未然に防ぐのが政府の意図。共同はそれを、政府に都合いいよう世論を操作しようとするものだと逆に捉えたのだった。記事で「特定国への敵対心を醸成」とまで断言したのだから穏やかでない。防衛省は即座にこの報道をフェイクだと否定した。早くも一仕事である。