その年の世相を表す漢字一文字を決める日本漢字能力検定協会の「今年の漢字」に、2022年は「戦」が選ばれたそうだ。なるほどとうなずいた人も多かろう
▼ロシアのウクライナ侵略や北朝鮮による相次ぐミサイル発射で戦争を意識せざるをえなかったのが一番の理由らしい。物価高や電力不足、新型コロナなど生活の中での身近な戦いもあった。日本代表が健闘したサッカーのワールドカップも影響したようだ。漢字がきれいにはまった年はこういうものかもしれない。年の瀬も近い12月の半ばにきて、さらに「戦」を際立たせる話題が飛び出した。防衛費増額の財源を増税で賄おうとの議論である。岸田首相が珍しく強い姿勢で方針を打ち出した
▼その財源の一つとして東日本大震災の復興特別所得税の一部も転用しようというのだから、疑問の声が上がるのも当たり前。野党、マスコミをはじめ、与党内からも異論が噴出し、乱戦状態に陥った。戦うための予算を巡って熱い論戦が繰り広げられたわけだ。厳しい安全保障環境の中で防衛費の増額は急務だが、国債や予算の組み替え、無駄の排除がなぜ最初から財源の選択肢に入っていないのか。国民の目には、財務省の手のひらの上でひらひらと踊る岸田首相の姿が映っているのでないか
▼この財源争奪戦は16日、自民、公明両党の税制調査会で一応の幕引きが図られた。法人、所得、たばこの3税を充てることで合意したのだ。実施時期は決めず、懸案の復興税には巧妙な細工が施された。いわば問題の先送り。戦いの火種はくすぶったままである。