試練の年が続く。なぜこうも困難なことばかり起こるのか。頭を抱えている人も多かろう。ただ、この苦しい経験が将来、大輪の花を咲かせる土壌にならないとも限らない。逆境が人や社会を強くするのは昔から変わらぬ世のことわりである
▼黒田三郎の詩「紙風船」を思い出す。こんな作品だった。「落ちて来たら 今度は もっと高く もっともっと高く 何度でも 打ち上げよう 美しい 願いごとのように」。困難に遭遇しても、つらい出来事があっても、それをばねにして諦めず何度でも高みを目指そうというのだろう。内に秘めた強さが伝わってくる。日本人と自然災害の関係にも似たところがあるのでないか。地震や津波、大雨などで国土が破壊されるたび、より強靱なインフラを整え安全な国づくりを進めてきた
▼近代日本で、そんな災害対策の原点となったのが関東大震災である。死者10万5000人、被害家屋29万3000棟の大惨事。1923年の発生からことしでちょうど100年になる。この危機を教訓に、災害に強い新たな都市計画が模索され、土地区画整理や円滑に流れる道路の整備が進められたのだった。建築物をはじめ全てのインフラに高い耐震と防火の性能が求められるようになったのも同じである
▼思想家の平塚らいてうは当時こう語ったそうだ。「勇気と忍耐と努力の何時かの後、私共は不幸が後に輝かしい幸福の原因であることを知ってよろこぶ時が来ることでありましょう」。災害対策は未来への遺産でもある。その大切な積み重ねに改めて向き合う1年としたい。