デフレとの戦いを大看板に掲げた安倍元首相肝いりの経済政策「アベノミクス」の目標は、前年比プラス2%の消費者物価上昇率を実現することだった。単純な数字だが、具体的な姿を描けなかった人も多いのでないか
▼みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は、その具体像を「2%程度のインフレは当たり前という前提で賃金を決める習慣」が定着した社会だと解説していた。門間氏は2%物価目標策定に携わった元日本銀行幹部。『日本経済の見えない真実』(日経BP)で当時を振り返っていた。しかし2%の壁は思った以上に高い。ようやく越えたのは奇しくも安倍元首相が非業の死を遂げた去年だった
▼ところがそれは描いた具体像とはほど遠く、原材料や燃料が高騰したことによる物価高。賃金は当たり前に増えるどころか逆に切り下げ圧力にさらされる始末である。岸田首相が年頭記者会見で「インフレ率を超える賃上げ」を表明したのは時宜にかなっていた。とはいえ、素直に喜ぶ気にはなれない。この30年、世帯収入はほぼ横ばいなのに、税と社会保障を合わせた国民負担率は10%増え、2022年には46.5%に達したのである。これではいくら賃上げしても生活は苦しくなるばかり
▼しかも首相は新たな財源を問われると決まって増税増税だ。これでは国民からさらに絞り取るため、企業に賃上げを求めていると勘ぐられても仕方がない。長年の懸案を解決しようとの意気込みやよし。ただ、国民のふんどしで相撲を取るのは遠慮していただきたい。