SFショートショートの名手星新一に「代償」という作品がある。つかみのうまさには定評のある星さんだが、これもはずさない。冒頭の一文から物語に引き込まれた。こう始まる。「その空飛ぶ円盤は、郊外の原っぱに着陸した」
▼前置きなしにいきなり空飛ぶ円盤が登場するのである。読んでいる者は、想像力をかき立てられる。いったいどこから来たのか、誰が乗っているのか、目的は友好なのか侵略なのか―。乗っていたのは物見遊山に訪れた宇宙人で、世界各国に将来の取引への期待をたっぷり抱かせて帰っていった。二度と来るつもりなどないのだが。現実でも未確認飛行物体(UFO)と呼ばれる空飛ぶ円盤への人々の関心は昔から高い。物語のように誰が何の目的でというところに興味があるのだろう
▼どうやら米政府も同じのようだ。12日、UFOに関する年次報告を発表し、さらなる分析が必要と結論づけたという。米軍パイロットなどから新たに360件以上の目撃情報が報告されたらしい。報道によると情報は2004年から昨年8月までに510件あり、今も増え続けているそうだ。その半数は正体がほぼ分かっているものの、飛行特性が現在の科学では説明できないケースも多いのだとか
▼米政府が懸念するのは、どこかの国が未知の飛行技術を発達させている可能性である。UFOは最速の戦闘機を追い抜いたり、一瞬で別の地点に移動したりすると聞く。軍事的には大変な脅威となろう。物見遊山の宇宙人には、同じ星の上で争うそんな人類の姿こそがいい見ものかもしれない。