作家の橘玲さんが人の本性について考察した『バカと無知 人間、この不都合な生きもの』(新潮新書)で興味深い事例を紹介していた。米国で男が白昼堂々、顔も隠さず銀行に押し入った話である
▼犯人はすぐに捕まったのだが、その時にこんなつぶやきを漏らしたそうだ。「だって俺はジュースをつけていたのに」。一体どこで何を間違えたのか、顔にレモン汁を塗ると透明人間になれると信じ込んでいたらしい。ある社会心理学者がなぜそんな勘違いをするのか疑問に思い、実験で確かめたという。分かったのは、「能力の低い者は、そもそも自分の能力が低いことを正しく認知できていない」こと。橘さんはそれをこう言い換えている。「バカの問題は、自分がバカであることに気づいていないことだ」
▼いささか直接的すぎる表現とはいえ、最近世間をあきれさせている出来事を見ると、さもありなんの感も否めない。回転ずしでレーン上のすしやしょうゆ差しにつばを付け、元に戻す高校生の話である。「スシロー」でそんな不潔な行為に及び、喜んでいる動画がSNSに拡散している。気持ちが悪くて店に行けなくなる人も出てこよう。信頼で成り立つ社会を破壊する悪質な行為である
▼このところ「はま寿司」や「くら寿司」でも他の客のすしを食べたり、大量のわさびをのせたりといたずらが相次ぐ。軽いお遊びのつもりだろう。ただ現実には多大な損失を伴う営業妨害である。たぶん本人は自分の問題にもことの重大さにも気づいていない。店は法的措置を講じて責任を自覚させた方がいい。