物は本来あるべき場所に戻さなければならない。それを少し文学的に表現した言葉に「カエサルの物はカエサルに」がある。新約聖書に記されたこんな一幕がもとになっているそうだ
▼ローマ帝国と距離を置いていたイエスをわなに掛けようと男が聞く。「帝国に税金を納めるべきでしょうか」。イエスは貨幣に皇帝の肖像があることを確認した上で答えた。「カエサルの物はカエサルに、神の物は神に返しなさい」。今では宗教色抜きでことわざのように使われている。それだけ世の中には、本来あるべき場所に戻っていない物が多いということか。2012年に韓国の窃盗団によって長崎県対馬市の観音寺から盗まれ、韓国に持ち込まれた県指定有形文化財「観世音菩薩坐像」もその一つ
▼捜査当局が窃盗団を摘発し、仏像は韓国政府管理となったが、韓国内の浮石寺が「倭寇」で奪われた物だと所有権を主張。政府に引き渡しを求める裁判を起こし、17年の一審では浮石寺の所有権を認定する判決が出ている。これには日本も開いた口がふさがらなかった。盗品と知って返さないなど国際法上ありえない話だ。日本政府は強く返還を要求。さすがにまずいと思ったのか、韓国政府も控訴していた
▼高裁には良識があったらしい。1日、一審判決を取り消し、観音寺の所有権を認めた。観音寺には李氏朝鮮の仏教弾圧で壊される仏像を日本に移したとの伝承があるという。遠い昔、彼の地にあったのは事実。ただ、長く守ってきたのは観音寺だ。観音寺の仏像は観音寺に、歴史のことは歴史に返した方がいい。